薄毛の天敵は気象条件です。
道行く人のこちらを見る視線や、ヘアサロンで大きな鏡に映る自分の姿など、何ほどのこともありません。
もっと苦労するのは、あらゆる気象条件です。
わかりやすいのは風でしょう。
突風が吹けば、せっかく時間と労力を費やしてつくりあげたヘアスタイルも一瞬で無に帰してしまい、その日はもう何もする気がおきません。
かといって、そよ風ならよいとも言えません。そよそよと吹く風になびき、知らない間に髪型が崩れ、隠したつもりの地肌がいつのまにかあらわになっている。これは自然の風に限らず、エアコンや空気清浄機の風でも同様ですから、室内にいるからといって安心できません。
雨はもちろんいけません。
うっかり傘を持たずに外出した日には、通り雨に濡れて、そうでなくても少ない頭髪がべったりと地肌にはりついて、これほどみっともない姿はありません。とりわけ筋状にひたいに垂れた髪の毛など、やりきれないものです。
晴れた日だって油断なりません。
日差しの強い日など頭皮から流れる汗をせきとめる髪の毛がありませんから、顔中がぐずぐずです。斜めからさしこむ太陽の光は、髪の毛の隙間から地肌を照らして、じりじりと焼くかのようですし、光線の加減では髪のボリュームがないことをあからさまに晒します。
何にしてもよいことはありません。
その日その日の天候を気にしながら外出するなんて、もううんざりです。
風が吹いてもくじけない。雨が降っても傘など気にしない。汗をかこうがかまわない。
それにはいっそ髪の毛をなくしてしまえばいいだろう。
そう決心して、無駄に薄毛を伸ばすのではなく、逆に短く短く、極端に短く切り詰めてしまうことです。
幸い芸能界にはたくさんの先達がいます。
竹中直人しかり、笑福亭鶴瓶しかり、海外ではブルース・ウィリスしかり。
隠すことなく堂々と自らあらわにしてしまう。
こちらから世間様に見せびらかすことで、ああ、あの人は潔い、男らしい、そういう評価が聞こえてきます。
気持ちも前向きになって、いままで遠慮していたオシャレなんかもしたりして。それがまた妙に評判がよくって、さらに身だしなみに凝るようになる。何もしないでむき出しにするのは開き直りですが、自分の欠点弱点だと思っていたものを実は自分の個性だと主張する。そのことでまわりの目はちがってきますし、自分の心持ちにも変化が生まれる。
もう、天候のことは気にしない。
全天候型のヘアスタイルとして、これにまさるものはありません。